東京高等裁判所 昭和30年(う)652号 判決
被告人 藤枝秀之助
〔抄 録〕
一、論旨第一点について。
原判決挙示の証拠によれば、被告人は原判示の職務権限を有する公務員であつたこと、ならびに原判示日時場所において、それぞれ原判示の者から原判示のような趣旨のもとに饗応を受け、もしくは物品を収受した事実を肯認するに十分である。所論は、「被告人の職務と判示された『立会』とは調査者の調査の正確性を認証するだけのものであり、指定工場の認可には一定の設備基準が定められているのであるから、認可申請工場の設備が基準にかなつて居りさえすれば実質的には自動的に当然認可されるものである。申請工場の設備が申請書記載の通りのものであるか否かを調査し、被告人がその調査が正確であるかどうか立会つて正確なものなら認証するだけのことであり、その調査には立会人の判断又は手心を加え乃至は斡旋をなす余地は全くない。また認可すべきか否かを商工省に具申するための諮問機関である自動車及び軽車輛用タイヤチューブ再製専門委員会は、商工省生活資源局長の招集により開催されるものであり、その開催の日時は被告人の関知しないところであるから、饗応等の有無によつて被告人が認可の時期を左右することはできないわけである。従つて被告人は指定工場認可に関してはなんらの権限は付与されていないから、原判決認定の饗応などは職務に関係のないものである。」と主張しているが、記録を調査すると原判示日時頃は、ゴム製品の資材は甚だしく不足していたため、その割当、配給も厳重に統制され、ことに自動車タイヤの再製修理は商工省生活物資局長から指定工場の認可を受けた者は然らざる業者よりも格段に優遇され、多量の資材の割当配給を受けうることになつていたこと、従つて民間業者は一日も早く右指定工場の認可を得ようと熱望していたこと、被告人は当時原判決認定のように商工省商工部化学課第一係長または同部商工課ゴム皮革係長として、他の職務と共に自動車タイヤ再製修理指定工場認可のための実地調査の立会等の事務を担当していたことが明白であるが右実地調査とは業者から提出された指定工場認可申請の当否を工場設備などの実態について調査するものであり、その立会とは、右調査が適正に行われたかどうかを監視認証する役目であること、その調査報告は、各地方商工局から商工省へ回付され、自動車及び軽車輛用タイヤチューブ再製委員会の諮問を経て、商工大臣から指定工場の認可不認可が決定されるものであるが、調査結果の如何は、認可不認可を決定するに最も重要な資料となるものであることは言をまたないところであるから、業者としてはその調査が少しでも早く施行され、しかもその結果が少しでも良く報告されることを希望していたのは当然である。而して指定工場として認可される条件としては一定の設備基準が定められ、調査は当該申請工場が右の基準に該当するかどうかを判定するものであるところ、本来その条件に適合するかどうかは客観的に決定せらるべき筈であり、またそれを理想とするけれども、現実の個々の具体的案件の処理に於ては、調査者の主観によつてその判定が左右せられ易いばかりでなく、極端な場合には故意に事実と一致しない調査報告がなされる可能性さえありうることは、その調査にわざわざ立会人の制度を設けて調査の公正を保持しようとしている点からみて容易に推測されるところである。既に調査の結果そのものが調査者の裁量によつて左右されうるものとすると、立会人がその調査を是認するかどうかという点においても、また立会人の主観によつて決定される余地の存することは当然である。換言すれば本件認可申請工場の調査においては、調査者ならびに立会人の裁量によつてその結果が左右されうる状況があつたこと、即ちその者たちの手心によつて或程度調査の結果を動かしえたものといわねばならないから、「立会人たる被告人には全然裁量の余地はなく、なんらの権限がない」という弁護人の所論は到底採用することはできない。しかも原判決挙示の証拠によれば、原判示各饗応ならびに物品の供与は被告人の職務に関して授受されたものであることを認めるに十分であるから、原判決には所論のような事実誤認または審理不尽は認められず、論旨は理由がない。